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日常

川原の火と一つだけの風よけの石

劇透範圍 無劇透 『ゆるキャン△』の始まりの設定(志摩リンが人の少ない季節に一人でキャンプをすること、道具の多くが祖父のお下がりであること)まで。物語の展開には触れません

十月の土曜、ゲンに誘われた大人三人の川原のデイキャンプ。初めて自分で火をおこしたいナギは、口数の少ないトウゴにキャンプの料理の話をふる。返ってくるのは一言だけ。それでも、薪の向こうに石が一つ増えていた。

適合這樣的人
口数の少ない人の隣で、なんとなく居心地がいいと感じたことのある人へ。初めての火おこしで手こずった人にも。
發言的人
Nagi × Tougo × Gen
聖地巡禮 川沿いのデイキャンプ場(河原のかまど場) 十月の土曜、昼過ぎから夕方まで

昼過ぎの河原には、まだ夏の名残りのような日差しが残っていた。かまど場の石のそばに、三人ぶんの荷物が置いてある。誘ったのはゲンだ。ゲンの家族は学校の行事で来られず、今日は大人だけで、昼から夕方までの短いキャンプになった。トウゴは約束の十五分前に着いて、かまど場のまわりの尖った石をどけ、地面をならしていた。ナギが着いたときには、もう座る場所が三つできていた。

ナギはいつも、ゲンの家の焚き火に呼ばれる側だった。火の番は、いつも誰かがしてくれる。だから今日は最初から決めていた。火は、自分でおこしてみる。

Gen

よし、俺は上の売店で氷と水を買ってくる。トウゴ、ナギの火、見ててやってくれ。手は出すなよ、本人がやるって言ってんだから。

Tougo

はい。行ってらっしゃい、ゲンさん。

ゲンの足音が石の上を遠ざかっていく。トウゴは、かまど場から少し離れた大きな石に腰をおろし、自分のザックの口を開けて中を確かめはじめた。ナギのほうは、見ていない。見ていないように、している。

Nagi

トウゴさん。今日、お昼は豚汁にしようと思ってて。具、持ってきたんです。キャンプのごはんって、何がいちばん好きですか。

トウゴは手を止めた。目はザックの中に落としたまま、しばらく黙っていた。

Tougo

……汁物、です。

Nagi

よかった。じゃあ、ちょうどいいですね。

それきり、会話は終わった。ナギは気にした様子もなく、新聞紙を丸め、売店で買った薪の袋を開けた。太い薪を三本、かまどの真ん中に組む。マッチを擦る。新聞紙はぱっと燃えて、薪の表面を少し焦がしただけで、すぐに黒くしぼんだ。

Nagi

あれ。……もう一回。

二度目も同じだった。川から吹く風が、そのたびに炎を横へさらっていく。三度目のマッチを擦る前に、ナギは手を止めて、膝の上で一度だけ指を温めた。

Nagi

画面で観てると、簡単そうなんですけどね。『ゆるキャン△』のリンちゃん、人の少ない寒い季節に、一人でキャンプに行くのが好きな子なんです。私、あれを観るたびに、自分でもできる気がしてたんだけどな。[1]

テレビアニメ第1期は2018年1月から放送

Nagi

人の少ない時期にわざわざ行くの、最初は寒そうだなって思ってたんです。でも、今日みたいに川の音しかしないと、ちょっとだけ分かる気がします。

返事はなかった。代わりに、トウゴが立ち上がった。河原を少し歩き、両手で抱えるほどの平たい石を一つ拾ってくる。風が吹いてくる川の側に、かまどに寄せて、それを立てた。ナギのほうを見ないまま、元の石に戻って腰をおろす。

ナギは石を見て、それからトウゴの横顔を見た。トウゴはザックの中の何かを、熱心に数えている。

Nagi

……ありがとうございます。

トウゴは小さくうなずいた。それから、なぜかザックの口ひもを一度ほどいて、きつく結び直した。ナギは、それ以上は何も言わなかった。石の陰では、風の音がひとつ遠くなっていた。

ナギは太い薪を一度どけた。石の陰で、新聞紙の上に、売店の袋の底に残っていた細い木くずを集める。それから、河原に落ちていた乾いた小枝を、指くらいの細さのものから順に並べた。トウゴのほうを見ると、トウゴはやはりこちらを見ていない。けれど、ナギが細い枝を手に取ったとき、ほんのわずかに、肩の力が抜けたように見えた。

マッチを擦る。新聞紙から木くずへ、木くずから小枝へ。小さな火が、今度は消えなかった。ナギは息を止めて見ていて、火が親指くらいの枝に移ったところで、やっと息を吐いた。

Nagi

ついた。……ついた! トウゴさん、ついた。

Tougo

……よかった。

Nagi

火のつけ方、どこで覚えたんですか。

Tougo

……山岳部、です。

それだけ言って、トウゴは足もとの小枝を何本か拾い、ナギの手の届くところに、細い順に並べて置いた。並べ終えると、また元の石に戻った。

Nagi

リンちゃんの道具って、ほとんどおじいちゃんのお下がりなんです。新品じゃないのに、どれも手になじんでて。トウゴさんのその鍋も、けっこう年季が入ってますね。[1]

ザックの横に、底の黒くなったアルミの鍋が置いてあった。取っ手のまわりだけ、何度も磨いたように光っている。トウゴはその鍋を一度見て、それから川のほうを見た。

Tougo

……親父の、です。

Nagi

そっか。じゃあ、リンちゃんと同じですね。

トウゴは何か言いかけて、やめた。代わりにザックの奥から新聞紙の包みを取り出し、かまどのそばの平らな石の上に置いた。包みの口から、泥のついた葉が少しのぞいている。

Nagi

これ、もしかして、豚汁に?

Tougo

……実家の。

包みを開くと、大根が一本と、葉のついた人参が二本、それに土のついたままの里芋が入っていた。ナギは大根を両手で持ち上げ、重さを確かめるように少し上下させた。

Nagi

重い。水がちゃんと入ってる。葉っぱの切り口もまだ青い。……これ、私が持ってきたのより、ずっといいです。こっち、使わせてください。

トウゴはうなずいた。今度は、さっきより少しだけはっきりと。

ナギはまな板を膝に乗せ、大根をいちょう切りにしていった。里芋は皮ごと少しゆでてからむく。そうすると手がかゆくならないし、皮もつるりと取れる。人参の葉は捨てずに刻んで、最後に散らす分としてよけておいた。包丁の音が、川の音に混ざって規則正しく続いた。トウゴはザックを閉じ、いつのまにか、ナギの手もとの見える位置に座り直していた。

ゲンが氷の袋と水のボトルを両手にさげて戻ってきたのは、鍋の水がちょうど湯気を立てはじめたころだった。

Gen

おお、ついてるじゃねぇか! ナギ、自分でやったのか。

Nagi

はい。三回失敗して、四回目で。風よけがあったので。

ゲンはかまどの川側に立てられた石を見て、それからトウゴを見た。トウゴは鍋のふたを持ったまま、川のほうへ顔をそむけた。ゲンは何も言わず、口の端だけで笑った。

Gen

トウゴ、お前、手は出してねぇよな。

Tougo

出してません。石を一個、置いただけです。……ゲンさん、氷、こっちの箱に入れましょう。肉が傷みます。

Gen

はっはっは! 石は手のうちに入らねぇってか。まあいい、火をつけたのはナギだ。

トウゴはゲンとは、驚くほど普通に話した。保冷箱の段取りを決め、ゲンの持ってきた肉の量に笑い、帰りの道の混み方まで確かめている。ナギはそれを、鍋をかき回しながら聞いていた。

Gen

ナギ、聞いてくれよ。うちの物置で錆びてた焚き火台、今日持ってくるって言ったら、こいつ、前の晩に取りに来て、ぴかぴかに磨いて持ってきやがった。頼んでもいねぇのに。

Nagi

磨いて。……トウゴさん、道具を大事にする人なんですね。

Nagi

ふふ。ゲンさんとだと、トウゴさん、いっぱい話すんですね。

トウゴの手が止まった。ゲンが、トウゴの背中を一回だけ叩いた。

Gen

こいつはな、山と飯と体の話なら、止まらねぇんだ。汁物の話なんかふってみろ、出汁から薪の割り方まで終わらねぇぞ。ナギ、そのうち聞いてやってくれ。

Nagi

いいんです。今日は、一言ずつで十分でした。汁物が好きってことも、鍋がお父さんのってことも、野菜がご実家のってことも、ちゃんと分かったので。

トウゴは鍋のそばにしゃがんだまま、しばらく動かなかった。それから、火に細い薪を一本だけ足した。炎がひとつ、背を伸ばした。

豚汁ができたのは、日が山の端にかかりはじめたころだった。ナギは三つの椀によそい、いちばん具の多い椀をゲンに、大根のいちばん大きなかけらが入った椀を、黙ってトウゴの前に置いた。トウゴは椀を両手で受け取り、湯気の向こうで、ほんの一瞬だけナギの手もとを見た。

Tougo

……いただきます。

Gen

うめぇ! この大根、甘ぇな。どこのだ。

Tougo

うちの畑です。今年は雨がちょうどよかったんで。

ナギは自分の椀を両手で包み、湯気を見てから一口飲んだ。火のそばは、もう風が来なかった。

Nagi

おかわり、一個だけ残してあります。最後まで火の番をする人の分です。

夕方の片づけのとき、トウゴは誰よりも先に、かまどの火に水をかけた。灰が冷えたのを手のひらで確かめてから、風よけの石を持ち上げ、拾ってきた場所へ戻しに行った。ナギはその背中を見送りながら、今夜メモ帳に書く一行を、もう決めていた。石は、一つでいい。

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講述者 Nagi 今天只看一集也沒關係 閱讀更多 Nagi 的文章 →

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