照明を半分だけつけたカウンター。グラスの代わりに、麦茶のピッチャーと、ハルが買ってきたたい焼きの紙袋が並んでいる。夜のカオルを知っている人には、今日の彼女の声は一段大きく聞こえるはずだ。
はい、ほな始めよか。今日は店やないから、私も問題出す側やで。
みんな、今日の気分はどうですか。重い問題と軽い問題、どっちから行きます?
夜勤明けだから、軽いので。寝ないで来たの。
チアキさん、寝てください。……と言っても寝ないのは知ってるので、麦茶を多めに。
ルールは一個だけ。当たったら、出した人がその作品の好きなとこを一言。外れても罰はなし。
春市のバット
ほな私から、野球や。『ダイヤのA』の小湊春市。この子、バットにひとつ、こだわりがあんねん。何やと思う?
すごく短く持つ!
色が決まってる。
正解
木のバット。守るのはセカンド。高校野球ではめったに見ない、木のバットで打っている。[1]
えっ、木製! 高校野球って、ふつうは金属ですよね。
せやねん。木は芯で打たんと飛ばへんから、ごまかしがきかへん。私がダイヤのAで好きなんは、こういう道具ひとつで、その子の考え方が見えるとこ。打席に入る前から、もう人の話になってんねん。
物静かな河村くん
じゃあ私、テニスの王子様。青学の河村隆は、ふだんは物静か。でも、ある物を持った瞬間に別人みたいに熱くなる。何を持ったとき?
それは……ラケット、ですか。テニスだし。
ひねって、ボール。
正解
ラケット。ラケットを持ったとたんに「バーニング」と呼ばれる状態に入り、熱い選手に変わる。[2]
えっ、そのまま? ひねらなくてよかった。
そのままなの。私がテニスの王子様で好きなのは、こういう、全員に一個ずつ「この人だけの瞬間」があるところ。小学生のころ、毎週その時間は誰にも話しかけられたくなかった。舞台で役者さんがラケットを持ち替えるときも、客席の空気が変わるんだよ。
乾くんの呼び名
続けてもう一人。同じ青学の乾貞治は、公式の紹介で、テニス部一の何と呼ばれているでしょう。
テニス部一の……メガネ。
カオルさん、それは見た目です。……テニス部一の、努力家。
正解
情報収集の鬼。データを何より重んじる、理論派の選手として紹介されている。[2]
えっ、鬼なん。うちの店でいうたら、お客さんの好みを全部メモしとる人やな。……それ、私や。
カオルさんは鬼じゃなくて、気遣いの人。私が乾くんで好きなのは、データを集めるのが、相手をちゃんと見ることと同じになってるところ。
カツ丼の重さ
私の番です。『ユーリ!!! on ICE』の勝生勇利。好物はカツ丼の大盛り。公式には、そのカロリーまで書いてあります。何キロカロリーでしょう。
数字ですか! 六百!
大盛りなら千は超えそう。
正解
900キロカロリー。公式の紹介に、好物は大盛りのカツ丼で900kcal、と書かれている。[3]
えっ、カロリーまで公式なんだ。
そこまで書く公式、好きです。……ここから私の解釈。この数字があるから、食べる場面ひとつに、努力と我慢の距離が見える。カツ丼が、ただの好物じゃなくて、勇利と周りの人をつなぐ約束みたいなものに見えてくる。
ユーリ・プリセツキーの呼び名
続けてユーリ。ロシアのユーリ・プリセツキーは、その美しさから何と呼ばれているでしょう。
氷の王子。
ロシアの……天使?
正解
ロシアの妖精。ただし、リンクを一歩おりると、ガラの悪いロシアのヤンキーだと紹介されている。[3]
えっ、ヤンキーなんかい。妖精とヤンキーの二刀流や。
そこがいいんです。リンクの上と下で、人との距離の取り方がまるで違う。……今の、長かった?
ぜんぜん。もっと聞きたかった。
坂道くんの紹介文
じゃあ僕。『弱虫ペダル』の主人公の小野田坂道くんは、作品紹介でどんな高校生だと書かれているでしょう。
自転車が大好きな高校生。……だと、問題にならないですね。
足が速い高校生。
正解
漫画とアニメが好きな高校生。そんな坂道くんが、自転車部の仲間に出会い、ロードレースの世界で育っていく。[4]
えっ、運動部の主人公なのに、紹介の最初がそこなんだ。
そうなんです。僕が好きなのは、そこ。最初から競技をしていた人じゃなくて、別のものが好きな人が、仲間に会ってロードレースを走るようになる。一歩目のきっかけが、他の人なんです。
コーチがスケートを始めた年ごろ
もう一問。『メダリスト』で、いのりちゃんのコーチになる明浦路司さんは、自分がいつスケートを始めたことが、いのりちゃんに共感する理由になっているでしょう。
大人になってから?
高校生。
正解
中学生。司さんは、自分が中学生になってからスケートを始めた経験があるので、いのりちゃんの置かれた状況と、その熱意に共感している。[5]
えっ、中学生から。フィギュアって、もっと小さいころから始めるものだと思ってた。
だから、この二人が組むのがいいんです。遅く始めた人が、遅く始めた人を信じる。僕、それを観るといつも、明日なにか一個始めたくなる。
かるたの札は何枚使う
最後の一問、僕から。『ちはやふる』の競技かるた。百人一首の札は百枚ありますけど、一試合で使うのは何枚でしょう。
百枚全部ちゃうの?
問題になってるってことは、違うんだよね。……八十枚。
正解
50枚。試合の前に、百枚の中から使う50枚を無作為に選び、それを25枚ずつに分けて、おたがい自分の前に並べる。それが自分の陣になる。[6]
えっ、半分なん。毎回ちゃう札で戦うんや。
そうなんです。どの札が来るか分からない。それでも準備して、一枚に飛びこむ。ちはやふるで僕が好きなのは、試合に出てない人も、ちゃんとその一枚を一緒に待ってるところです。
敵陣の札を取ったら
ほな、かるたの続きで私も一問。相手の陣の札を取ったら、ボーナスみたいに、できることがひとつあんねん。何やと思う?
もう一回、続けて取れる。
相手の札を一枚、持って帰れる。
正解
自分の陣から一枚を、相手の陣に送れる。これを「送り札」という。自分の陣の札を先に全部なくしたほうが勝ち。[6]
えっ、取るんじゃなくて、渡すほうなの。
せやねん。勝つために、相手に一枚押しつける。どの札を送るかで、相手の気持ちまで揺さぶれる。野球で言うたら、どの球で勝負するか選ぶのと一緒や。私はあれを見て、かるたは投手の競技やと思た。
カオルさん、全部野球につながりますね。
つながるもんはつなげる。それが昼の私や。
名前の読み方
おまけで一問だけ。『響け!ユーフォニアム』の低音パートの子、川島緑輝。下の名前の読み方は?
みどり、じゃないんですよね、きっと。
知ってるけど、黙ってる。
正解
さふぁいあ。公式の紹介では「かわしま さふぁいあ」と読み仮名がふられている。[7]
えっ、さふぁいあ! 緑なのに、青い宝石なんだ。
そう、そこが好きなの。名前ひとつに、つけた人の思いがぎゅっと入ってる。部活の話なのに、一人一人の家の話がちょっとだけ見える。
たい焼きの紙袋が空になるころ、チアキはカウンターに頬をつけたまま、目を閉じていた。三人は声を一段落として、麦茶をもう一杯ずつついだ。
……寝ましたね。
寝かしとき。起きたら、次は誰が出題するか、くじで決めよ。
じゃあ僕、次までにハイキューの問題を作ってきます。レイさん、手伝ってもらえますか。
……いいですよ。公式に書いてあることと、私の解釈は、ちゃんと分けて出しますけど。