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日常

鶴見川で異能の名前を言い合う

劇透範圍 含部分劇透 『文豪ストレイドッグス』TVアニメ第1期の序盤(主人公が探偵社に関わるところ)まで(畳んだ部分に、序盤で分かる主人公の異能を含みます)。それより先の展開には触れません

『文豪ストレイドッグス』の街、横浜へ。誘った本人のエマは「急用」で来ず、残されたのは文学部のソウマと、早口のレイ。初対面どうしの気まずさは、『山月記』の一言でほどけた。

適合這樣的人
教科書で読んだ作家の名前に、少しだけ思い出のある人へ。好きな作品の話になると早口になって、あとで「長かった?」と聞いてしまう人にも。
發言的人
Souma × Rei
聖地巡禮 神奈川県横浜市(鶴見川の河口に近い川べりから、港のほうへ) 十月の土曜、昼から夕方まで

十二時五分。待ち合わせの駅の出口で、ソウマとレイは三メートルの間をあけて立っていた。どちらも携帯電話の同じ画面を見ている。エマからのメッセージ。「ごめん! 急な用事! 二人で行って! Nice な一日を!」。

Rei

……ソウマくん、だよね。エマの大学の。レイです。

Souma

……どうも。エマの、夜のゲームの相棒の人。

Rei

そう。……エマ、こういうときよく急にいなくなるよね。

Souma

よくいなくなる。理由は、聞かないことにしてる。

Rei

私も。

それだけで、二人のあいだの三メートルが二メートルになった。

Rei

今日の作品、確認しとくね。文豪ストレイドッグス。実在の文豪、たとえば太宰治や芥川龍之介や中島敦がキャラクターになってて、それぞれの作品やペンネームにちなんだ異能力で戦う話。[1]

Souma

舞台が横浜なのは、漫画の絵を描いている人が横浜の出身だから、らしい。[1]

Rei

調べてきたんだ。

Souma

……人の多い街に来るときは、調べてから来る。迷うと、声が出なくなるから。昔、外国で一回それをやった。

Rei

外国で。……それは、聞いていい話?

Souma

……そのうち。今日は、川の話が先。

二人はまず、鶴見川の川べりへ歩いた。横浜市の鶴見区で東京湾に注ぐこの川は、東京の町田の泉から流れてくる。土曜の昼の土手には、走る人と、犬を連れた人と、ベンチで新聞を読む人がいた。

Rei

アニメの第1話は、行き場をなくした少年がヨコハマをさまよって、この鶴見川で、ある探偵社の男と出会うところから始まるの。[1]

Souma

少年の名前が、中島敦。……俺、大学の文学部で、中島敦を読んでる。

Rei

待って。じゃあ山月記、読んだ?

Souma

読んだ。高校の教科書で読んで、大学でもう一回読んだ。……好きな小説を一つだけ、と言われたら、たぶんあれを出す。

Rei

待って待って。じゃあ、敦くんの異能の名前の意味、分かる人だ。

Souma

……分かる。分かるから、二周目は一話の最初から顔が変わった。

中段為止序盤で分かること(主人公の異能)點擊展開

物語の序盤で、敦が探偵社の追う「人食い虎」の正体で、自分でも知らないうちに異能「月下獣」で白い虎に変身していたことが明かされる。その異能の名前は、中島敦の短編『山月記』からとられている。

探偵社の男・太宰治の異能は、相手の能力を打ち消す「人間失格」。

ソウマ「人が虎になる話を書いた作家の名前の少年が、虎になる。初めて観たとき、ちょっと笑って、そのあと笑えなくなった。山月記の虎は、自分の弱さから逃げた結果だから」

レイ「ここから私の解釈。自分の中にいた虎と、敦くんがこれからどう付き合っていくのか。私はそこを、拾った人と拾われた人の話として観てる」[1]

レイは早口で話し終えてから、急に我に返って、ソウマの顔をのぞきこんだ。

Rei

……今の、長かった?

Souma

長かった。……でも、俺が言いたかったことと、半分同じだった。

Rei

残りの半分は?

Souma

言葉の話。……異能に名前があるのが、いい。名前をつけた瞬間に、それはもう自分のものになる。……今の、なし。

Rei

忘れない。ソウマくん、昔、自分の技に名前つけてたでしょ。

Souma

……つけてない。

Rei

つけてた顔してる。

Souma

……実家に封印してある。ガムテープ三重で。それ以上は聞かないで。

土手の下では、川が静かに流れていた。レイは手すりのそばに立ち、川面を一枚だけ撮った。ソウマが、少し離れたところから言った。

Souma

……ここ、作品の場面を真似して川に下りる人、いないといいけど。

Rei

いないといいね。川は危ないし、ここは毎日走ってる人の道だから。私たち、土手の上から見るだけにしよう。

Souma

コスプレの人は、こういうとこで撮ったりしないの。

Rei

私はしない。衣装で撮るのは、撮影していいって決まってる場所と時間だけ。ふつうの道で衣装のまま撮ってたら、通る人がびっくりするし、写りこんだ人に悪いでしょ。衣装は、ちゃんと場所に許してもらってから着るものだと思ってる。

Souma

……仕事の人の言い方だ。

Rei

本業は障害対応だから。手順を飛ばすと、だいたい事故になるの。

遅い昼ごはんは、駅の近くのパン屋で買って、公園のベンチで食べた。ソウマの鞄からは、折りたたみ傘と、モバイルバッテリーが二個と、ウェットティッシュが出てきた。

Rei

荷物、多いね。

Souma

……裏方の癖。何か起きたとき、すぐ取り出せる側にいたい。

Rei

それ、障害対応の当番の人が言うことと同じ。私も鞄に充電器を三本入れてる。

Souma

三本は多い。

Rei

二個のバッテリーに言われたくない。

ソウマは返事のかわりに、ウェットティッシュを一枚レイに渡した。レイはそれを受け取って、少しだけ笑った。仕事の外で、知らない男の人の前で笑うのは、レイにはわりと珍しいことだった。

Rei

アニメはどうやって観てるの。

Souma

一話ずつ。気になった台詞をノートに書いて、話の組み立てを分解する。二時間の映画は、途中で止めないと無理。

Rei

私は、気になる二人が並ぶ場面を秒単位で止める。……止める場所は違うけど、二人とも止める派だね。

Souma

止める派。……エマは止めない。全部、三回観る。

Rei

原語と字幕と吹き替えでね。あの子の体力、どこから来てるんだろう。

夕方、二人は港のほうへ移動した。海に近づくほど風が強くなり、ソウマは上着の前を閉じた。歩きながら、レイはずっと、作品の中の二人組の話をしていた。相棒と、宿敵と、師匠と弟子。どの二人がどう並んで立っているかで、関係が全部分かるのだと。

Rei

並び方って、台詞より先に関係を言っちゃうの。どっちが半歩前か、どっちが相手の背中を見てるか。

Souma

……じゃあ、今日の俺たちは。

レイは足を止めて、二人の影を見た。駅の出口で三メートルあいていた距離は、いま、一メートルくらいになっていた。どちらも、相手より前には出ていない。

Rei

……エマの友だちどうし。

Souma

それ、並び方関係ない。

Rei

関係ないね。……でも、今日はそれでいいと思う。

港の手すりにもたれて、ソウマは鞄から文庫本を一冊出した。表紙のすり切れた、中島敦の短編集。しおりの位置は、最初の一編のところだった。

Souma

……貸す。アニメの二周目の前に。

Rei

いいの?

Souma

返すときに、感想を三行。長かったら、読まない。

Rei

……三行は、無理かもしれない。

一週間後、レイは文庫本を返した。挟んであった紙には、感想が三行……のはずが、裏までびっしり続いていた。ソウマは表の三行だけを読んで、紙を裏返さずに本へ戻した。それから少しして、黙って裏返した。

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講述者 Souma 在幕後夢想帝國的文學系學生 閱讀更多 Souma 的文章 →

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