平日の夜、開店したばかりのカオルのバー。まだ客はミサひとりでした。休みの日に三周目を観終えたという韓国ドラマの話をしに来たミサは、グラスが置かれるより先に、紙ナプキンに題名を書きはじめました。
ハングルの中の神
カオル、この題、韓国語でどう書くか知ってる?
存じません。韓国語は、お客様に教わった挨拶くらいしか。
『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜』は、韓国のケーブル局tvNで、2016年12月から2017年1月まで放送されたドラマです。韓国語の題は「쓸쓸하고 찬란하神 - 도깨비」、読みは「スルスラゴ チャラナシン トッケビ」。ハングルが並ぶ題の中に、漢字の「神」が一字だけはめこまれています。英語版の直訳は「The Lonely and Great God」、寂しく、偉大な神、といったところです。事实[1]
日本の題は「君がくれた愛しい日々」。恋の題よね。本国の題は、寂しい、が先に来るの。同じドラマなのに、入口の看板がこんなに違う。作品中的观察
看板が違うと、入ってこられるお客様も違いそうです。解读
そう。私は日本の看板で入って、韓国の看板のほうで泣いた口。喜好
胸に剣を刺したまま
高麗の武将キム・シンは、謀反の濡れ衣を着せられて命を落とし、その剣を胸に刺したまま、九百年以上を生きるトッケビとなりました。剣を抜けるのは、この世でただ一人「トッケビの花嫁」だけ。そして剣が抜ければ、彼はこの世を去ることになります。事实[1]
一方、幽霊が見える女子高生のウンタクは、幼いころに母を亡くし、叔母の家で肩身の狭い暮らしをしています。ある日トッケビと出会った彼女は、自分がその「花嫁」だと知る。トッケビの家には、記憶を持たない死神が、ひょんなことから同居人として住みつきます。事实[1]
見つけた瞬間から、終わりへの道が始まる決まりなのよ。恋が始まる合図と、別れの合図が、最初から同じ一本の剣。脚本家って、ときどき本当に容赦がないわ。解读
それでいて、トッケビと死神が同じ屋根の下で暮らしているところは、ちゃんと笑えるの。重たい話のあいだに、軽い一拍を挟んでくる。振付でも、いちばん大きく跳ぶ前は、わざと力を抜くのよ。解读
重いお話のときほど、あいだに軽いひと言が要りますね。カウンターでも、同じです。喜好
……花嫁、という言葉に、少し反応してしまいました。
顔に出てた。おばあさまからでしょ。
昨日も、お電話をいただきまして。
このドラマの花嫁はね、式場の段取りの話じゃないの。誰かが胸に抱えてきた重たいものを、抜いてあげられるたった一人のこと。そういう相手なら、探すのを止めはしない。解读
それ、ええ話やん……あ、いえ。すてきなお話ですね。
言い直さなくていいのに。
裾の長い上着
劇中でコン・ユが着ていたコートは、流行を生みました。事实[1]
長いコートはね、立ち姿をごまかせないの。裾が膝より下まであると、歩き出す一歩目の迷いが、全部布に出る。九百年分の重さを、台詞より先に、あの裾が運んでるのよ。解读
私はお店では、裾の長い上着は着ません。ボトルを投げ上げると、引っかかりますので。喜好
あなたは投げる人で、彼は立ち尽くす人。衣装は、その人が何をする人かで決まるの。振付も同じ。解读
ケベックの石畳
脚本はキム・ウンスク。演出のイ・ウンボクとは、『太陽の末裔』に続いて二度目の組み合わせです。事实[2]
海外での撮影は主にカナダのケベック・シティーで行われ、シャトー・フロンテナックなどが使われました。事实[2]
私、ドラマのロケ地は必ず調べるの。いつかあの石畳を、ヒールで歩いてみるつもり。転ばない歩き方なら、生徒より先に練習しておくわ。喜好
行かれたら、ぜひお話を聞かせてください。
あら、聞くだけ? あなたも一緒に行く? 休みを取る練習に。
……祖母には、出張と申し上げておきます。
『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜』の韓国語の題は、ハングルの中に漢字の「神」が一字だけ入っている。日本の題は恋を、本国の題は寂しさを先に掲げている。