冬の昼。荷物を抱えたルカは、門の前で一度深呼吸をしてから呼び鈴を押しました。前に配達で道に迷い、庭先で立ち尽くしていたとき、声をかけてくれた家です。花の手入れをしていたタカシが、作業着のまま出てきました。
鎖国を続けた日本
タカシ様、お荷物です。今日は、迷わずに参りました。……あの、もしお時間がございましたら、昨夜観たアニメのことを、少しだけお話ししてもよろしいでしょうか。
どうぞ。ちょうど水やりが終わったところです。
『蟲師』は漆原友紀さんの漫画で、蟲師のギンコが、蟲の起こす出来事を訪ね歩いていきます。連載が始まったのは1999年、講談社の『アフタヌーンシーズン増刊』でした。事实[1]
単行本で『瞼の光』と題が変わった一編は、もとは『蟲師』の題で投稿され、1998年のアフタヌーン四季賞で四季大賞に選ばれた作品です。漆原さんが商業誌に出るきっかけになりました。事实[2]
時代は、作者の言い方を借りれば「鎖国を続けた日本」です。事实[1]
鎖国を続けた日本、ですか。歴史が一か所だけ別の道を進んだ国、という考え方ですね。……いけない、作品の話から逸れるところでした。解读
いえ、そこを伺いたかったのです。私は年号のことがあやふやで、どこが違うのかを確かめたいときは、いつもタカシ様に頼ってしまいます。
見える人と見えない人
作中の「蟲」は、昆虫のことではありません。命のおおもとに近いところにいるもので、見える人もいれば、見えない人もいます。事实[1]
蟲師は、蟲を相手にする医者であり研究者。世の中にはあまり知られていない仕事です。事实[1]
医者でもあり、研究者でもあって、それでいてあまり知られていない仕事。……私は、そういう仕事をしている方に、つい親しみを覚えてしまいます。喜好
知られていない仕事ほど、なくなると困るものです。うちの会社にも、そういう係がいます。解读
旅をする蟲師と住む蟲師
蟲師には、一か所に住みついて働く人もいれば、ギンコのように渡り歩く人もいます。ギンコが旅をやめないのは、蟲を寄せつけてしまう体質だからです。事实[1]
ほとんどの話は一話で完結します。数人の例外とギンコ以外は、話が替わるたびに出てくる人も替わります。事实[1]
ひとつ所に留まれない人が主人公で、毎回、出会う人が違う。私も配達をしておりますので、少しだけ分かる気がいたします。毎日、知らない玄関の前に立って、知らない方に荷物をお渡しする。……私のほうは、よく道に迷いますけれど。喜好
旅をする者と、一か所を守る者。どちらが上というわけでもありません。会社でも、現場を回る者と店を守る者がいて、どちらが欠けても回らない。解读
はい。私は、住んで働く蟲師の方のことも、気になってしまうのです。どんな屋根の下で、何を食べて暮らしているのだろう、と。喜好
ルカさんは、いつも住まいの話に目が行きますね。
……はい。お恥ずかしいことに。
いいことだと思いますよ。住まいの話ができる人は、暮らしを大事にする人ですから。解读
……ありがとうございます。
一話ずつ間をあけて
テレビアニメは2005年10月23日にスタートし、2006年6月19日までに全26話が放送されました。監督とシリーズ構成は長濵博史さん、アニメーション制作はアートランド、ギンコの声は中野裕斗さんです。ギンコのズボンは、作者本人が「変。」と自分で突っ込んでいたものですが、アニメ版では無地のシンプルな柄に変更されました。事实[1]
作者ご自身が変だとおっしゃっていたズボンを、アニメでは無地に。……私も着るものは無地ばかりですので、少しうれしくなりました。喜好
私の作業着も無地です。量販店の。喜好
初めての方には、一話ずつ、間をあけて観ることをおすすめしたいです。基本的に一話で一つのお話が終わりますので、今日は一話だけ、で構いません。私は、配達の合間に一話ずつ観ております。喜好
では、私は朝の花の世話のあとに一話ずつにしましょう。長い戦記ものを一晩で観るのとは、逆の観方ですね。喜好
はい。……あの、ではそろそろ。次の配達先が、少し遠いものですから。
道は分かりますか。
……念のため、もう一度だけ地図を確かめてから参ります。
『蟲師』の蟲師には、各地をめぐる人と、一か所に住みつく人がいる。主人公のギンコは、蟲を引き寄せる体質のせいで一つの土地にいられず、旅を続けている。