日曜の昼、カグラの勤める劇場のロビー。朝いちばんの回を観終えたハヤテが、まだ少しぼんやりした顔でベンチに座っていました。かかっていたのは『ジュラシック・パーク』。カグラが「どうでした?」と聞くと、二人の話は、いつものように別々の方向へ走りだします。
開園前のテーマパーク
スティーヴン・スピルバーグさんが監督した『ジュラシック・パーク』は、1993年に作られたアメリカのSF映画です。原作はマイケル・クライトンさんが1990年に出した同じ題名の小説で、脚本はクライトンさんとデヴィッド・コープさんが書いています。事实[1]
遺伝子の技術で恐竜をよみがえらせたテーマパークがある。その開園を前に、専門家たちがパークに招かれる。物語はそこから動きだします。事实[2]
大きい恐竜が出てくるところ、音が客席のうしろまで回ってきたの、分かりました?
……いえ、音より、重さです。あの恐竜、地面に足を下ろすたびに、体ぜんぶがちゃんと沈んでいました。喜好
重さ、ですか。……今日も、そこから来ましたか。
動かせないほど重い恐竜
恐竜づくりには三つの持ち場がありました。コマ撮りの人形で恐竜を動かしてきたフィル・ティペットさん。特殊メイクの名手スタン・ウィンストンさん。そしてILMで視覚効果を率いるデニス・ミューレンさん。この三人が、スピルバーグさんのもとに集められています。事实[1]
役者と恐竜が同じ画面で絡む場面には、ウィンストンさんのチームが作った実物大のアニマトロニクス(機械で動く模型)が使われています。ティラノサウルスは高さがおよそ6メートル。重すぎて、ほとんど動かせないほどでした。そこで模型のほうは据えたまま、まわりにセットを組んで撮っています。事实[1]
動かせないから、まわりのほうを動かす……。カートでいうと、マシンを止めたまま、コースのほうを組み替えるようなものです。解读
劇場で言えば、スクリーンはそのままで、客席を並べ替えるようなものでしょうか。
……それは、ちょっと違う気がします。
雨の夜に重くなる皮膚
雨の中の場面では、さらに困ったことが起きました。恐竜の皮膚に使った発泡ゴムが雨水を吸い、模型がますます重くなったのです。スタッフは、模型を乾かしながら撮影を続けました。事实[1]
それです。雨の場面で、恐竜の動きが少し重たく見えた気がしたんです。水を吸った分だけ、首を振るのに時間がかかる。……タイヤも、濡れた路面だと、まるで別の重さになります。乗る前に、手で一回押して確かめるくらいで。喜好
……あ、すみません。しゃべりすぎました。
いえ、もっと聞きたいです。私はあの雨の場面、ずっと雨音の粒の大きさを聞いていました。喜好
全身はCGで
当初の計画では、恐竜の全身が映る遠くからの場面は、ティペットさんがストップモーションの一種であるゴー・モーションで作り、CGは群れが走る場面などに限る予定でした。ところがILMが作ったCGのティラノサウルスの試作を見て、スピルバーグさんは全身の場面をCGで作る方針に切り替えます。事实[1]
それでもティペットさんたちの手は生きていました。人形を動かすように骨組みを手で動かすと、その動きがコンピューターに送られる装置が作られ、CGの恐竜の動きづけに使われています。事实[1]
人の手で動かした動きが、画面の中の恐竜に入っているんですね。……だから、重さが嘘っぽくなかったのかもしれません。解读
客席を取り囲む声
この映画は、デジタルの音で上映することにこだわって作られ、映画用のデジタル音響の方式DTSが使われました。事实[1]
恐竜の鳴き声は、いろいろな動物の声を混ぜ合わせて作られました。事实[3]
私が言いたかったのは、そこなんです。鳴き声が前から来て、少し遅れて横とうしろからも来る。客席の皆さんが、一回だけ首をすくめるんですよ。うしろから見ていると、頭の列が少し低くなるのが分かります。喜好
首をすくめるのは、重いものが近づいたときの体の反応です。……やっぱり、重さの話だと思います。解读
ふふ。じゃあ今日は引き分けで。午後の回、席がまだ空いていますけど、どうします?
……雨の場面だけ、恐竜の足元を見に行きます。
雨を吸って重くなった恐竜と、いろいろな動物の声を混ぜた鳴き声。重さで観る人と音で観る人、同じ場面でも、受け取る場所が違います。