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五番目は『BLUE GIANT』。紙の漫画です。音の出ない紙なのに、ページを開くと、部屋の空気が少し震えるような気がする。耳ではなく、目の奥のほうで音が鳴る。その感覚がどこから来るのかを、今日は一つずつ確かめていきます。
中学生の私と音のする紙
出会ったのは中学生のときです。小学校の高学年のころ、私は映画の音をまねするのが好きで、音だけで場面を思い出せるのが不思議でたまりませんでした。この漫画は、その逆を教えてくれました。絵から音を想像する時間です。机の上で一冊を開いたまま、何分もページをめくらずにいたことがあります。喜好
作者は石塚真一さん。事实[2]
小学館の作品ページは、この漫画を、ひたむきに誠実に音を鳴らすジャズの成長物語だと紹介しています。主人公の宮本大が目指すのは、世界でいちばんのジャズプレイヤー。仙台を流れる広瀬川の川原で、大は毎日サックスを吹きます。雨が降っても、猛暑でも。物語はそこから始まります。事实[1]
理由その一 音を体と顔で描いている
演奏の場面になると、私には音が音符で説明されているようには感じられません。そのかわりに描かれるのは、ふくらむ頬、楽器を押さえる指、首すじを伝う汗、前のめりになる背中。そして、それを聴いている人たちの顔です。目を見開く人、思わず体が揺れる人、じっと動かなくなる人。作品中的观察
音そのものは描かれていないのに、聴いている人の顔を見ると、どれくらい大きな音が鳴ったのかがわかる。私はこれを、鏡に映った光を見て太陽の明るさを知るようなものだと思っています。音を直接描かないからこそ、読む人の耳の中で、それぞれの音が鳴るのかもしれません。中学生の私の耳の中で鳴ったのは、ざらざらした、少し割れたような大きな音でした。友だちに同じ場面の音を聞いてみたら、まったく違う答えが返ってきて、二人で笑いました。同じページから、違う音が鳴る。それがうれしかったんです。解读
理由その二 ページをめくる「間」が息つぎになる
演奏の場面では、言葉がぐっと少なくなるページがあります。大きなコマで一気に見せたあと、次のページで急に静かな絵になる。その切り替わりに、私はいつも息をのみます。作品中的观察
研究テーマにしている「ページをめくる間」は、この漫画から生まれたと言ってもいいくらいです。めくる前の一瞬、手が止まる。次のページに何があるのかを知らないまま、紙の端に指をかけている時間。あれは、演奏者が次の音を出す前に息を吸う時間と、どこか似ている気がするんです。解读
紙をめくる間が息つぎなら、右から開く本と左から開く本で、息のリズムも変わるのかな。違う言葉の版で読んだ人に、どこで息を吸ったか聞いてみたくなる。有依据的推测
ノアの問いには、私もまだ答えを持っていません。でも、同じ音を違う指でめくって聴いている人がいる、と想像するだけで、この一冊が少し広く感じられました。
理由その三 川原の天気まで音になる
作品紹介にもあるとおり、大は雨の日も暑い日も川原で吹き続けます。その場面では、空の広さや、湿った空気、照りつける日差しが、背景としてしっかり描かれている。私はそこで、サックスの音だけでなく、雨粒の音や川の流れる音まで一緒に想像してしまいます。晴れた日の音は遠くまで抜けて、雨の日の音は水にくるまれて少し重い。そんな違いまで、勝手に聞こえてくるんです。作品中的观察
好きなキャラクターに宮本大を挙げているのは、この「鳴らすことへのまっすぐさ」に惹かれるからです。誰が聴いていなくても、天気がどうでも、音を出す。上手く鳴ったかどうかより、今日も鳴らしたかどうか。その姿を何度も見ているうちに、私も好きな色をノートに残すことを、誰かに見せるためではなく続けていいのだと思えるようになりました。喜好
ジャズを知らない人への入口
ジャズを聴いたことがなくても、まったく問題ありません。私も中学生のときは、楽器の名前さえあやふやでした。おすすめは、最初の巻を、音楽をかけずに静かな部屋で読むことです。外から音を足さないほうが、紙のなかの音がよく聞こえます。急いで読まなくて大丈夫。演奏のページでは、一枚ごとに少し手を止めてみてください。喜好
もう一つは、演奏の場面で一度だけ、主人公ではなく客席の誰か一人の顔を追ってみること。その人の表情が変わったところで、音が変わったのだとわかります。主人公の顔だけを見ていたときには気づかなかった音の大きさや温度が、客席の側からだと、ふいに伝わってくることがあります。喜好
映画で聴くなら
映画『BLUE GIANT』の公式サイトによれば、作品が映像になったのはこの映画が初めてです。アニメーション映画という形を選んだのは、本物のジャズを劇場いちばんの大音量と最高の音質で観客に届けたい、とスタッフが考えたからだそうです。事实[5]
監督は立川譲さん。脚本のNUMBER 8さんは、連載が始まる前から担当編集者だった人で、今もstory directorの肩書きで名を連ねています。事实[3]
アニメーション制作はスタジオ・NUT、映画音楽はピアニストの上原ひろみさんが担当しています。事实[4]
紙の上では私の耳の中だけで鳴っていた音が、映画では本当に空気を震わせます。漫画を先に読んだ人は、自分の耳の中の音と映画の音を並べてみてください。違っていても、それは間違いではなく、同じページから違う音が鳴ったあの日の続きです。映画から入った人は、そのあと漫画を静かな部屋で開くと、覚えている音が紙の上で鳴り始めるかもしれません。喜好
ほかの好きな作品と
楽器を鳴らす人の姿という点では『リズと青い鳥』と、リズムが感情になる瞬間という点では『ピンポン THE ANIMATION』と、説明より先に感覚が動く体験という点では『GRIS』とつながっています。紙の上で音を想像する楽しさを最初にくれたのは、この一冊でした。喜好
持ち帰るしおり:演奏の場面では音楽をかけずに読み、客席の誰か一人の表情が変わった瞬間に、自分の耳の中で何が鳴ったかを確かめてみる。
