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日常

午前二時のレジで魔王の話を

剧透范围 无剧透 どの作品も、紹介文と物語の始まりの設定で分かる範囲まで。展開と結末には触れません

住宅街のコンビニの夜勤に入って三日目のルカ。サメ柄のパジャマで、のり弁とプリンを買いに来たミコ。言葉の長い店員と、対面だと言葉が出ない客。怒鳴る客が一人帰ったあと、ミコはスマートフォンに一行だけ打って、画面をルカに向けた。

适合这样的人
深夜のレジの前で、なぜか緊張してしまう人へ。短い仕事をつないで暮らしている人にも。
发言的人
Luka × Miko
深夜便利店 住宅街の角のコンビニ 水曜の深夜

午前二時十分。客のいない店内で、ルカはレジの内側から、揚げ物のケースの値札を端から一枚ずつ、指でまっすぐに直していた。短期の仕事で、この店の夜勤に入るのは三日目になる。

自動ドアが開いた。パジャマの上にパーカーを羽織った女の人が入ってくる。パジャマの柄は、パンをくわえたサメだった。

Luka

いらっしゃいませ。……あ。

Miko

……あ。

ミコは一瞬、自動ドアのほうへ半歩下がった。知り合いがレジにいるのは、知らない人がいるより、ある意味で難しい。

Luka

ミコさん。このようなお時間に、お散歩でございますか。

Miko

散歩じゃない。のり弁。

ミコは店内をゆっくり一周してから、カゴに、プリンを二つ、炭酸水を一本、のり弁を一つ入れて、レジに置いた。

Luka

お預かりいたします。のり弁、でございますね。温めは、いかがなさいますか。

Miko

……うん。

Luka

「うん」というのは、温めるほう、ということでよろしいでしょうか。それとも、お気持ちとしては温めたいけれども、お持ち帰りの時間を考えるとそのままのほうが、という意味合いの——

Miko

温めて。

Luka

かしこまりました。

電子レンジが回りはじめる。そのあいだに、ルカはプリンのバーコードを読もうとして、三回続けて失敗した。

Miko

角度。

Luka

はい?

Miko

バーコード、ななめ。

Luka

……恐れ入ります。こちらはまだ三日目でして、不慣れで申し訳ございません。

Miko

三日目でそれなら、上出来でしょ。

Luka

恐れ入ります。それから、ポイントカードは、お持ちでいらっしゃいますか。

ミコは止まった。財布の中に、カードは三枚ある。どれがこの店のものか、急に分からなくなった。

Miko

……ない。たぶん、ない。あるかもしれないけど、ないことにする。

Luka

かしこまりました。ない、ということで。

Miko

そこは、流してくれるんだ。

Luka

私も、受付ではよく固まりますので。

Luka

袋は、ご利用になりますか。有料でございまして、大きさが二種類、それから——

Miko

いらない。つまり、ポケットに入れて帰るってこと。

Luka

プリン二つを、ポケットに。

Miko

入る。パジャマのポケット、深いから。

Luka

……深いのですね。

ルカは、口もとを少しだけ引き締めた。

Miko

それ、何。エプロンのポケット。

Luka

休憩時間に読もうと思っております、はたらく魔王さま!です。

Miko

知ってる。魔王がバイトするやつ。

Luka

はい。異世界の魔王サタンが、日本で真奥貞夫と名を変えて、ファーストフードのお店で、アルバイトから正社員を目指して働くお話です。[1]

Luka

住まいは、笹塚の、六畳一間でお風呂のないアパートでございまして。[1]

Miko

そこまで覚えてんの。

Luka

世界を征服しようとしていた方が、六畳一間で暮らしを立て直していく。私は、そこに、妙に勇気をいただきまして。

Miko

家の広さで勇気出るの、だいぶ疲れてるよ。

Luka

……はい。疲れております。

Miko

あんたの仕事も、魔王みたいなもんでしょ。短いのを、つないで。

Luka

はい。配達の日もあれば、倉庫の日も、こうした夜の日もございます。

Miko

それ、万事屋じゃん。

Luka

よろずや……?

Miko

銀魂。坂田銀時ってのが江戸で万事屋をやってて、どんな依頼にも首を突っ込むの。[2]

Miko

やる気なさそうに見えて、侍の魂だけは手放してない。そこなんだよ。

そこから先は、早かった。ミコは低い声のまま、急に早口になった。ふだんはだらけている主人公が、いざというときだけ筋を通すのが好きなこと。笑いながら観ていたはずなのに、いつのまにか笑えなくなっている瞬間が好きなこと。その切り替わりの前の、ほんの一拍の静けさが、いちばん好きなこと。ルカは、そのあいだに揚げ物のケースのトングを一本、きれいに拭き終えていた。

Miko

……いまの、長かった?

Luka

いいえ。たいへん、よく分かりました。ミコさんは、ふざけたまま真剣になる方のお話が、お好きなのですね。

Miko

……一行で言わないで。照れる。

Luka

侍の魂……。

Miko

あんたの場合は、たぶん、値札をまっすぐにする魂。

ルカは、揚げ物のケースの値札を振り返った。全部、まっすぐだった。

Luka

……これは、魂というほどのものでは。

Miko

魂だよ。三日目でそれは、魂。

Luka

ミコさんは、いつもこのお時間に。

Miko

昼は、人が多いから。夜なら、レジの前で固まっても、誰も見てない。

Luka

……私が、拝見しておりますが。

Miko

あんたは数に入らない。……いい意味で。

Luka

いい意味で、数に入らない。

ルカはその言葉を、値札と同じくらいていねいに、頭の中でまっすぐに置き直しているようだった。

そのとき、自動ドアが開いて、作業着の男の人が入ってきた。缶コーヒーを一本、レジの台に音を立てて置く。

男の客

これ。早くして。

Luka

いらっしゃいませ。恐れ入ります、ただいま、こちらのお客様の——

男の客

一本だけなんだから先にやってよ。遅いんだよ、夜のバイトは。

ミコの肩が、こわばった。大きな声の前では、ミコは言い返せない。のり弁を温めるレンジの音だけが、やけに大きく聞こえた。

Miko

……どうぞ。先。

ミコは半歩横にずれた。ルカは深く頭を下げて、缶コーヒーの会計をした。今度は、バーコードは一回で読めた。男の人は釣り銭を受け取ると、何も言わずに出ていった。

自動ドアが閉まると、ミコは黙ってスマートフォンを取り出し、何かを打ちはじめた。打ち終わると、画面をルカのほうへ向けた。

そこには、こう書いてあった。「遅いのは悪くない。怒鳴るほうが悪い。順番をゆずったのは、わたしが弱かったから。ごめん」

Luka

……ミコさんが謝ることは、何も。

Miko

口で言えなかったから、書いた。それだけ。

Luka

私も、言い返せませんでした。……言い分を聞いていただけないのには、少し、慣れておりますので。

ミコは何か冗談を言いかけた顔をして、やめた。

Miko

……慣れなくていい。

Luka

はい。

Miko

聞く人がいなかったんなら、それは、聞かなかったほうが悪い。あんたじゃなくて。

Luka

……はい。

レンジが鳴った。のり弁が温まっていた。

Miko

……ねえ。ちゃんと寝てる?

Luka

はい。夜勤のあとは、朝のうちに眠ります。

Miko

どこで。

Luka

個室のあるところで、と申しますか。毛布を一枚、きれいにたたんでから眠ることにしております。たたむと、そこが少しだけ、自分の寝床らしくなりますので。

ミコは、それ以上は聞かなかった。聞かないほうがいいことの線を、ミコはいつも、誰よりも早く見つける。

Miko

……たたむの、えらい。わたし、毛布、たたんだことない。

Luka

それは、それで、よく眠れそうです。

ルカは、のり弁に割りばしを添えてミコに渡し、プリンを二つ、その横に並べた。

Miko

一個、あげる。休憩で食べて。

Luka

いえ、そのようなお気遣いは……お客様からいただくのはいかがなものかと、それに私は夜中に甘いものをいただきますと、翌日の配達の足取りが——

Miko

つまり、もらうってことね。

Luka

……はい。いただきます。

Luka

では、こちらのプリンは、温めますか。

Miko

プリンは温めない。

Luka

……失礼いたしました。口が、勝手に。

Miko

あと、プリンをポケットに入れる話のとき、笑いそうになってたでしょ。

Luka

なっておりません。

Miko

笑えば?

Luka

……業務中ですので。

ルカはそう言って、くるりと背を向けた。背筋をぴんと伸ばしたまま、レジ横の募金箱の向きを、意味もなく直している。肩が、ほんの少し震えていた。

Miko

……背中で笑うの、器用だね。

Luka

笑っておりません。

ミコはのり弁を片手に、プリンを一つパジャマのポケットに入れて、自動ドアの前で立ち止まった。

Miko

おつかれ。

いつもより、ほんの少しだけ大きな声だった。自動ドアが閉まる。午前二時四十一分。揚げ物のケースの値札は、全部まっすぐなままだった。

三時。休憩に入ったルカは、バックヤードの折りたたみ椅子で、もらったプリンのふたを開けた。エプロンのポケットから文庫を出して、魔王がアルバイトに向かう場面を、もう一度読んだ。プリンは、ていねいに一口ずつ食べた。小さなスプーンを洗って、ふたを四つに折って捨ててから、ルカはレジに戻った。値札が一枚だけ、ほんの少し傾いていた。直しながら、ルカはほんの少しだけ、口もとをゆるめた。

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讲述者 Luka 不使用力量的堕天使 阅读更多 Luka 的文章 →

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