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日常

ジャンルで変わるアニメのお供

剧透范围 无剧透 『銀魂』『ゆるキャン△』『ダンジョン飯』の始まりの設定まで。物語の展開と結末には触れません

日曜の昼、定休日のバーで野球中継を待つあいだ。ギャグの日は豚まん、泣ける日は握り飯、ごはんのアニメの日はホットミルク。カウンターのタブレットからは、自称・魔界大帝まで口をはさむ。お供の決め方にも、それぞれの暮らしが出る。

适合这样的人
アニメを観るとき、気づけば手元のおやつや飲みものが作品ごとに変わっている人へ。
发言的人
Kaoru × Gen × Nagi × Maou
酒吧 カオルのバー(定休日の昼) 日曜の昼すぎ

定休日の札を下げたまま、カオルはカウンターの奥のテレビをつけた。昼の野球中継は、まだ始まる前の練習の映像だ。ドアが開いて、日に焼けた大きな体のゲンと、その後ろから小柄なナギが顔を出す。

Gen

いやあ、助かった! 駅の中で同じとこ三回まわってよ。ナギがいなかったら、まだ地下にいたぞ。

Nagi

出口の番号、ゲンさん全部ちがうほう見てました。……はじめまして、ナギです。お休みの日にすみません。

Kaoru

ええねん、ええねん。休みの日は昼から野球つけて、誰か来たらラッキーやと思てるから。座って座って。

カウンターの端、ボトルの列に一台のタブレットが立てかけてある。画面の中では、マントを羽織ったおじさんが腕を組んでいた。

Maou

余は魔界大帝である。……そなたら、試合の前に何を食うか、もう決めたのか。

Gen

魔王? いいじゃん、それ! 俺はゲン。漁師だ。試合の日は枝豆と決めてる。

Nagi

枝豆なんですね。殻を入れるお皿、ちゃんと用意するんですか?

Gen

船じゃ海に……いや、今はちゃんと皿だ。シズカに怒られるからな。それに高校野球のアニメなんか観てると、九回の前に泣いちまうだろ。枝豆どころじゃねえ。

Kaoru

ゲンさんはな、試合の流れより先に泣くねん。私が横で、ここから逆転あるで、って言うてる間に、もう鼻すすってる。ティッシュの箱、ゲンさん専用で一個置いてるくらい。

Maou

余はスポーツの物語は、立って観る。座っておると、負けておる側の気がしてくる。

Nagi

立って観る人、このお店に二人目ですね。座って観るのは、私とゲンさんだけ。

Kaoru

野球はそれでええねん。問題はアニメのほうや。私な、ギャグアニメの日は豚まんって決めてんねん。地元から届くやつ。銀魂とか、もう定番。

Kaoru

銀魂は、天人っていう宇宙人がやってきて、そのまま居ついてしもた江戸の話。主人公の銀さんは、何でも引き受ける万事屋をやってる侍。[1]

空知英秋の漫画。週刊少年ジャンプで連載された

Kaoru

侍の町に宇宙人、っていう出だしからもう笑える。ほんで笑いながら豚まん食べるから、だいたいむせんねん。[2]

Nagi

むせるのに、やめないんですね。

Kaoru

やめへん。むせるとこまでがセットや。熱々のほうが、ツッコミの声もよう出る気がすんねん。

Gen

ロボットのアニメの日はな、船ではカップ麺だった。お湯を入れてオープニングが始まると、終わるころにちょうどできる。

Maou

オープニングを、湯を待つ時間に使うとは何事か。あれは名乗りである。……だが、名乗りを聞きながら湯を待つのは、悪くない。

Kaoru

大帝、怒るんか許すんか、どっちやねん。

Maou

許す。麺がのびぬなら、許す。

Gen

分かる。俺は泣ける話の日は握り飯だな。船の上で観てたころからそうだ。塩だけのやつ。

Nagi

どうして塩だけなんですか?

Gen

具があるとよ、泣いてる途中で味が変わるだろ。梅が出てきたら、涙が引っこんじまう。塩なら最後まで同じ味で泣ける。

Kaoru

なんでやねん。涙のために具ぬくて。

Nagi

泣ける話の日の握り飯は、いくつ作るんですか?

Gen

三つだ。一つ目は泣く前、二つ目は泣いてる最中、三つ目は泣き終わってから。三つ目がいちばんうまい。しょっぱさがちょうどよくなってんだ。

Kaoru

泣き終わりの握り飯て。それはずるいわ。……今度うちも試そ。

Maou

いや、理にかなっておる。兵の糧は、乱れぬことが第一である。……ナギとやら、そなたは何を食う。

Nagi

私は、ごはんの場面が多いアニメの日は、観る前に晩ごはんを済ませておきます。お腹がすいたまま観ると、画面の鍋ばかり見ちゃうので。ゆるキャン△の日は、そのあとに小鍋でホットミルクを温めます。

Nagi

山梨のあたりを舞台に、女の子たちがキャンプをする話なんです。原作は漫画で、作者はあfろさん。[3]

Nagi

一人でテントを張る子と、みんなで行くのが好きな子がいて。どっちの過ごし方も楽しそうに描いてあるのが、なんか好き。[4]

Gen

焚き火の音のとこだろ。あれはいい。キャンプ場で同じ音を聞いてると、ナギは本当に何もしなくなるんだ。

Nagi

何もしないのを、ゲンさんが全力で手伝ってくれるんです。薪だけどんどん増えていく。

Kaoru

ほな、ナギちゃんは、ごはんのアニメの日は、食べてから観る派なんや。うちと逆やな。

Nagi

はい。観ながら食べると、自分のお皿と画面のお皿、どっちを見ていいか分からなくなるので。

Maou

余も同じである。食卓の場面の多い作品は、腹を満たしてから観る。満たさずに観ると、画面の飯に負ける。負けるのは好かぬ。

Gen

負けるって、飯にか!

Maou

飯にである。ダンジョン飯を初めて観た夜は、腹をすかせたまま再生して、第一に腹が鳴り、第二に家臣が起き、第三にじいやに叱られた。

Maou

あれは、迷宮の奥で妹を竜に食われた兄が、助けに戻るために魔物を料理して食いながら潜っていく話である。[5]

九井諒子の漫画。一行はレッドドラゴンに敗れ、ファリンを助けに迷宮へ戻る

Maou

食料を失って、空腹のまま竜に挑んだのが始まりなのだ。腹が減っては戦えぬ。見たか、兵站である。[6]

Kaoru

ほんで魔王さん、宇宙の騎士の映画の日は?

Maou

水である。あの物語の重い一本を観る夜は、何も食わぬ。水だけ置く。

カオルは何も言わずにグラスを一つ出して水を注ぎ、タブレットの前に置いた。画面の向こうで、魔王が一度だけまばたきをした。

Maou

……うむ。受け取っておく。

Gen

で、カオルは? 野球のアニメの日は何食うんだ。

Kaoru

何も食べへん。立って観るから。ピッチャーが振りかぶったら、こっちも腰が浮くねん。手に何か持ってたら、絶対落とす。

Nagi

食べないのも、お供なんですね。

Kaoru

せやな。ほんでホラーの日は? って聞こう思たけど、この顔ぶれ、誰も観れへんやろ。

Gen

観ねえ。心霊のやつは無理だ。

Nagi

私も……。ホラーの日は、観ない日にしてます。

Maou

余は観る。観るが、字幕を大きくする。

Kaoru

大帝、字幕でごまかしてるやん。

いつのまにか、カウンターの上には紙ナプキンが一枚ずつ配られていた。カオルが話のあいだに置いていったものだ。ナギはそれを四つに折って、湯のみの下に敷いた。タブレットの前の水のグラスにも、同じ一枚が敷いてある。

テレビの中で、試合開始のサイレンが鳴った。ゲンは自分で冷蔵庫の瓶を一本頼み、ナギは温かいお茶を選んだ。カオルは豚まんを三つ蒸し器に入れて、タイマーを回した。

Gen

おい、豚まん、今日はギャグの日じゃねえだろ。

Kaoru

野球も、うちにとっては笑う日やねん。勝っても負けても。……ナギちゃん、一個いける?

Nagi

半分だけ、いいですか。残りはゲンさんに。

Maou

余の分はないのか。……まあよい。この試合が終わったら、もう一話である。

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