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日常

『おまえ うまそうだな』で父のほうが先に泣いた

剧透范围 无剧透 どの絵本も、出版社の紹介文で分かる入口まで。お話の結末と、どの場面で泣いたかには触れません

職場体験で保育園の読み聞かせをすることになった次女が、居間で練習を始めた。「泣いたら笑うから」と言われた両親が、読み聞かせで声が詰まった絵本の話をする。末っ子は、父が泣いたことをまだ覚えていた。

适合这样的人
子どもに読み聞かせをしていて、声が詰まったことのある人へ。これから読む側になる人にも。
发言的人
Shizuka × Gen × Ten
家人 海辺の町、ゲンの家の居間と縁側 日曜の昼すぎ

昼の皿が片づいた居間で、中学生の次女が絵本を三冊、畳に並べていた。来週の職場体験で、保育園の子たちに一冊読むことになったのだという。縁側では白い猫が一匹、日なたで丸くなっている。

次女

練習するから聞いてて。泣いたら笑うからね。

Gen

誰が泣くんだよ。

末っ子

父ちゃん。

小学生の末っ子が、漫画から顔も上げずに答えた。次女は母のほうを向いた。

次女

母ちゃんは? 読み聞かせで泣いたこと、ある?

Shizuka

あらあら。……あるわよ。泣いたというより、読んでいるうちに、慰められていたのが私のほうだったことが。

Shizuka

よるくま。夜、男の子のところに、お母さんを探しにまっ黒な「よるくま」が来て、男の子はよるくまを連れて、夜の町へお母さんを探しに出かけるの。[1]

酒井駒子作。偕成社から1999年11月に刊行

Shizuka

ゲンさんが海の上だったころ、夜泣きするお姉ちゃんを抱いて、台所の明かりの下で読んでいたの。読み終わるころには、お姉ちゃんより先に、私のほうが落ち着いていたのよ。

ゲンは湯呑みを持ったまま、しばらく黙っていた。

Gen

……その台所、俺は知らねぇんだよな。

Shizuka

知らなくていいんですよ。明かりは、ちゃんとついていましたから。

次女

いい話にしないで。練習できなくなる。父ちゃんは?

Gen

俺は恐竜のやつだ。アンキロサウルスの赤ん坊の前にティラノサウルスが出てきて、「おまえうまそうだな」って近づいてくんだよ。[2]

『おまえ うまそうだな』宮西達也作・絵。ポプラ社から2003年3月に刊行

Gen

こいつが恐竜の図鑑ばっかり見てた年に、図書館で一緒に借りてな。読んでたら、俺のほうが先に……

末っ子

泣いた。おれ、背中さすった。

Gen

先に言うなよ!

末っ子

父ちゃんがいつも先に言うから、おれも先に言った。

次女

どこで泣いたの?

ゲンの口が開きかけた。台所のほうから、静かな声がした。

Shizuka

……ゲンさん。

Gen

言わねぇよ。……言わねぇ。保育園で読むなら、自分で見つけろ。

縁側の猫が、いつのまにか背筋を伸ばして座り直していた。

Ten

にゃ。

ゲンは猫から目を離して、次女のほうへ向き直った。

Gen

お前にも読んだんだぞ。ぐるんぱのようちえん。ひとりぼっちの大きなぞうが、あっちこっちの仕事場で一生けんめい働くのに、作るもんが大きすぎて失敗ばっかりでな。[3]

西内ミナミ作、堀内誠一絵。福音館書店の初版は1966年12月

Gen

陸に上がって何年か、網の繕いも港の段取りも空回りしてたころだ。読みながら鼻すすってたら、お前、けらけら笑ってた。

次女

覚えてない。

Gen

だろうな。笑われて、こっちは助かったんだ。

Shizuka

それなら、あなたが覚えていないもう一冊も。あさえとちいさいいもうと。お母さんの留守に、妹と家の前で遊んでいたあさえが、顔を上げたら妹がいなくなっている、というお話よ。[4]

筒井頼子作、林明子絵。福音館書店の初版は1982年4月

Shizuka

お姉ちゃんが、あなたの手を引いて公園へ行くようになった年に、二人に読んだの。読み終わったら、お姉ちゃんが黙って、あなたの手を握り直していて。胸がつまって、次の本を開けなかったのよ。

次女は何も言わずに、自分の手のひらを見た。それから、並べた三冊のうち一冊を取った。

次女

じゃあ、読むよ。保育園の子だと思って聞いて。

最初の何ページかは、よく通る声だった。あるページで、その声が一度だけ止まった。次女は咳払いをして、何もなかった顔で続けた。

末っ子

いま、止まった。

次女

止まってない。

Gen

泣けるじゃねぇか……!

次女

父ちゃんが泣いてどうすんの。笑うって言ったよね。

次女は笑わなかった。かわりに、止まったページの角を、指先で小さく折りかけて、やめた。図書館の本だった。

Shizuka

どこで止まったかは、保育園の子たちにも内緒にしておいてね。さあ、もう一回。今度は、お母さんも保育園の子になります。

シズカは座布団の上で背筋を伸ばし、小さな子のように両手を膝に置いた。縁側の猫も、同じ向きに座った。

本文中的作品

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