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日常

『三びきのやぎのがらがらどん』を古本屋に持ち寄る

剧透范围 无剧透 どの本も、出版社の紹介文で分かる入口まで。物語の展開と結末には触れません

次の持ち寄る会のお題は「子どものころの一冊」。試しに三人で出し合ってみたら、話はいつのまにか中身より、読んでくれた人や止めた人のほうへ。絵本とつばさ文庫と学習まんがが、古本屋のカウンターに並んだ。

适合这样的人
子どものころの一冊を、中身より先に読んだ日のことで覚えている人へ。
发言的人
Lily × Akari × Itsuki
某一天 下町の古本屋、店先とカウンター 土曜の昼前

土曜の十一時すぎ。店先の箱に値札を貼っていたイツキの前に、図書館の袋を抱えたリリィがやってきた。後ろに、竹刀袋を背負った女の子が一人ついている。

Lily

イツキさん、こんにちは。約束どおり持ってきました。こっちは、ダンス教室で一緒のアカリです。

Akari

アカリです。……古本屋って、初めて入りました。

Itsuki

いらっしゃいませ。竹刀袋、そこの柱に立てかけてもらって大丈夫です。

リリィが次の「持ち寄る会」のお題に決めかけているのは、子どものころの一冊だった。本番の前に三人で試したい、と言いだしたのは先週のこと。持ってくるのは一人一冊。話すのは、中身より、その本を読んだ日のこと。

Lily

じゃあ、私から。今朝、図書館で借りてきました。三びきのやぎのがらがらどん。

Lily

ノルウェーの昔話で、三びきとも名前が「がらがらどん」なんです。橋の向こうの山で草を食べようとして、渡る途中で、谷に住むトロルに出くわすんです。[1]

マーシャ・ブラウン絵、せたていじ訳。福音館書店の初版は1965年7月

Lily

祖母が図書館で読んでくれた、たぶん最初の一冊です。橋の場面になると祖母の声が低くなって、それが怖くて。私、祖母の袖をつかんだまま最後まで聞きました。

Akari

怖いのに、最後まで聞いたんだ。

Lily

袖をつかんでたら、聞けたの。……ねえ、ここ。祖母の声が変わるページ。

Akari

で、トロルってどうなるの?

Itsuki

そこは、あらすじは言わないでおきます。僕もさっき店の在庫で読んだばっかりで。これ、僕には新刊でした。

Akari

えー。じゃあ自分で読むしかないじゃん。

Lily

うん。会でも、そこは誰も言わないことにする。

Akari

次、私。兄貴の本棚の、いちばん下にあったやつ。怪盗レッド。

角川つばさ文庫。シリーズの1冊目は2010年2月刊

Akari

中1のアスカが体を動かす係で、同い年のいとこがパソコンでナビする係。で、盗むのは悪いことしてる人からだけ。[2]

Akari

小三の冬に勝手に読んで、読むたびに居間で前転したくなって、母に、家の中はやめてって止められた。

アカリは本をカウンターに置き、背が鳴るほど大きく開いた。値札を貼っていたイツキの手が止まった。

Itsuki

それ、次に読む人がいるんで。

Akari

次に読むの、兄貴だけど。

Itsuki

じゃあ、お兄さんのためにも、です。

Akari

……ふうん。分かった。勝手に持ってきたのも、帰ったら言う。

アカリは表紙をそっと閉じて、両手で持ち直した。

Lily

イツキさんの一冊は?

Itsuki

僕のは、これです。学習まんがの、野口英世。

小学館版 学習まんが人物館の一冊

Lily

紹介には、左手のやけどの手術がきっかけで医学の道を選んで、大学に行かずに独学でお医者さんになった人、って書いてあります。それから、アメリカへ渡るんですね。[3]

Itsuki

小学生のころ、雨の日に、この店の帳場の隅で読んだんです。店先の箱から一冊抜いて。読み終えて祖父に返しに行ったら、黙って裏の値札をはがして、僕の膝に戻してくれて。

Akari

値札はがしたら、もう売れないじゃん。

Itsuki

そうなんです。それで、店の本じゃなくなりました。

裏表紙には、四角い跡が薄く残っていた。リリィは指で縁をなぞりかけて、やめた。

Lily

ノートに書きます。三人とも、中身より先に、読んでくれた人と、止めた人の話をしてた。

Akari

止めた人って、うちの母?

Lily

と、イツキさんのおじいさん。値札をはがした人。

奥の帳場で、祖父が老眼鏡を額に上げた。イツキは祖父の右側に回って、少し大きな声で言った。

Itsuki

じいちゃん、昔の野口英世の話。覚えてる?

祖父は伝票を一枚めくってから、顔を上げずに言った。「雨だったな」

Akari

覚えてんじゃん。

Lily

お知らせの文、決めました。「子どものころの一冊と、それを読んだ日のことを持ってきてください」。……あ、もう行かないと。祖母の家に、一時までに着く約束なんです。

Akari

兄貴に、なんて言って返そう。

Itsuki

前転したくなったところだけ、言えばいいと思います。

二人が出ていったあと、イツキは学習まんがを帳場の引き出しにしまった。値札の跡のある面を、下にして。

本文中的作品

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