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6選の六本目は、アニメの『薄桜鬼』です。もとは女性向けのゲームで、私はそちらを先に知りました。アニメは、ゲームをひと区切りさせたあとで追いかけたものです。
休憩室で選んだ一本の道
看護師になったばかりのころ、夜勤の休憩は、仮眠をとるか、ゲームを少し進めるかのどちらかでした。このゲームは、場面ごとに選択肢が出て、どれを選ぶかで物語の先が分かれていきます。一つ選べば、ほかの道はその夜には見られない。休憩の終わりのアラームが鳴ると、選んだ道の続きだけを持って、ナースステーションに戻っていました。喜好
どんな作品か
原作は、アイディアファクトリーの女性向けブランド、オトメイトのゲームです。新選組を題材にしたシリーズとして続いてきました。事实[1]
アニメはスタジオディーンが制作し、監督はヤマサキオサムさんです。事实[1]
物語は幕末の京から始まります。雪村千鶴は父を捜して京へ向かい、男の格好をしていたことから少年と思われたまま、新選組と出会うことになります。事实[1]
選ばなかった先にいた人たち
アニメを観て、いちばんうれしかったのはそこでした。ゲームの私は、選んだ一人の隣にいる時間しか見られなかった。アニメには、休憩室で選ばずに通り過ぎた隊士たちが、ちゃんと自分の顔をして出てくる。ああ、この人はこういう声で笑うんだ、と一人ずつ思いました。選ばなかった選択肢は、消えたわけじゃなかった。ずっとそこにあって、私が見に行くのを待っていた。そう思えたことが、私にとってこの作品のいちばん大きな贈り物です。喜好
アニメのあとでゲームに戻る
アニメを観終えてから、私はもう一度ゲームを最初から始めました。今度は、前に選ばなかったほうの選択肢を選ぶために。アニメで見た顔を思い浮かべながら、休憩室で一つずつ選び直していく。同じ場面でも、選ぶ相手が変わると、画面の端の人の表情まで違って見えました。ゲームとアニメを行ったり来たりするうちに、一つの物語を何人ぶんもの目で観ているような気持ちになっていきました。喜好
選択肢は誰のためにあるか
女性向けのゲームの選択肢は、選ぶ私のためにあるように見えます。でも、選ばれなかった側にも、その場面を生きる時間がある。アニメで全員が動いているのを観てから、私は選択肢を、選ばれる人の側からも考えるようになりました。病棟でも、こちらが何を選ぶかで、相手の一晩が変わることがある。選ぶ側は、選ばれなかったほうの重さも知っておきたい。勝手な読み方ですが、この作品はそれを思い出させてくれます。解读
外から来た人の目
物語の入口に立つのは、京の外から来た千鶴です。隊の決まりも、隊士たちの過去も、最初は何も知らない。少しずつ近くで見せてもらいながら、それでも内側の人にはなりきらない。その立ち位置が、私には客席に似て見えました。舞台の人たちの事情を全部知ることはできないけれど、近くで見守ることはできる。千鶴の目線に乗って観ていると、知らないままでいることも、一つの誠実さのように思えてきます。解读
一歩うしろに立つ副長
好きなのは土方歳三です。新選組の副長。アニメの土方さんは、先頭で叫ぶ場面より、一歩うしろで隊全体を見ている場面のほうが、私の記憶には多く残っています。全部を背負っているのに、背負っている顔を見せない立ち方。病棟でいちばん頼りにしていた先輩も、そういう立ち方をする人でした。全体を見ている人は、自分が見られることを後回しにしがちです。だから画面の中で土方さんが一人で座っている場面になると、私はつい、台詞より先に顔色のほうを見てしまいます。解读
灯りの少ない京の夜
画面の色も好きです。灯りの少ない京の夜の場面は、暗いのに、隊士たちの羽織や刀の光る線がくっきり見える。夜勤明けの目にやさしい暗さで、カーテンを閉めた部屋で観るのにちょうどよかった。桜の色が出てくると、それだけで部屋の空気が少しやわらかくなりました。夜勤のあいだに見る病棟の廊下も、灯りを落とした暗さの中に、必要なものだけが光って見えます。あの京の夜は、少しそれに似ていました。喜好
恋愛ものだと身構える人へ
女性向けのゲームが原作と聞くと、恋愛の話だと身構えたくなります。私がアニメで最初に引きこまれたのは、隊の中のやりとりのほうでした。新選組や幕末の名前に少しでもなじみがある人なら、知っている名前が出てくるところから入ると楽しかった。ゲームを遊んだ人なら、自分が選ばなかった誰かを探しながら観る。それが私のいちばん好きな観方です。新選組の名前を一人も知らなくても、私は困りませんでした。誰が隊の中でどんな役目を負っているかは、言葉より先に、立ち位置と目の向け方で伝わってきます。喜好
6本を並べてみて
刀の物語としては舞台『刀剣乱舞』と、絵の中の人が自分の道を見つけていく話としては『うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVE1000%』と、どこかでつながっています。十一歳でテニスのアニメに夢中になった私が、夜勤の休憩に選択肢を選び、休みを寄せて劇場へ向かう。6本並べてみると、どれも、誰かの一歩を外から見守る作品でした。喜好
選ばなかった道は消えていない。ゲームで通り過ぎた人の顔を、アニメでもう一度見にいく。
