四本目は『その着せ替え人形は恋をする』。ロボットは一体も出てこないのに、あたしの6選にはこれが入ってる。手を動かす人の話だから。
作業机の横で流してる
いまのうちの作業部屋には、机が二つ並んでる。片方があたしので、もう片方が旦那の。……旦那の話になると、なんか声が小さくなるのは自分でも分かってる。で、その横でよく流してるのがこのアニメ。ギャルと職人が並んで手を動かす話だから、なんか、ちょうどいいんだよね。喜好
二人とも作業中はほとんどしゃべらない。話しかけられても、あたしは「……ちょっと待って、いま乾く前」しか言わないし。だから、部屋の中で聞こえるのは、アニメの声と、やすりの音と、換気扇の音だけ。たまに好きな場面になると、どっちからともなく手が止まる。喜好
雛人形の職人と同級生
主人公の五条新菜は高校一年生。雛人形を作る祖父の影響で、人形の顔を作る職人「頭師」を目指してる。でも小さいころ、仲の良かった子に、男の子なのに人形が好きなんて、と否定されたことがずっと引っかかってて、趣味を人に言えずにいる。事实[1]
新菜が人形のための服を縫ってる姿を、クラスの喜多川海夢がたまたま目にする。見た目はギャルで、じつはコスプレがしたくてたまらないアニメ好きの子。新菜の裁縫の腕に驚いた海夢は、コスプレの衣装を作ってほしいと頼みこむ。事实[1]
原作は福田晋一さんの漫画で、アニメを作ったスタジオはCloverWorks。監督は篠原啓輔さん。事实[2]
好きなところ1 顔を作る職人を目指す子
新菜が目指してるのは、雛人形の顔を作る頭師。人形でいちばん目がいく顔を任される仕事、って聞いただけで、あたしは背筋が伸びる。あたしも機体の目や細い線を描くときは、息を止めて、手首じゃなくて指先だけで描く。顔を作る人の緊張って、たぶんあれと同じ種類のもの。喜好
美容の専門学校で覚えた手さばきが、いちばん役に立ってるのも、実はこういう細い筆づかい。メイクの練習で、人の顔に線を引く怖さを何回も味わったから、顔を作る仕事を目指す新菜の気持ちが、他人事に見えない。喜好
好きなところ2 隠してた子と隠さない子
新菜は、自分の好きをずっと胸にしまってきた子。海夢は、好きなものを好きって大きな声で言える子。あたしはこの二人、どっちも自分の中にいると思ってる。中学のころは新菜みたいに趣味を隠してたし、ばれてからは、海夢みたいに開き直った。服とメイクが好きなあたしと、黙って筆を持つあたし。両方そろって、やっといまのあたし。解读
それにこの作品、好きなものを笑う側に立たない。海夢は、新菜の手仕事を見て、変だなんて言わずに、衣装を作ってほしいって頼みこむ。好きを分け合うって、こういうことなんだと思う。解读
海夢を観てると、専門学校のころの自分を思い出す。模型を押し入れにしまって、夜な夜な派手な服で出歩いてたころ。当時のあたしは、服もメイクも全力で、好きなものを好きって言うのに迷いがなかった。ただ、その「好き」の中に、模型だけは入れてなかった。海夢が自分の好きを一個も隠さないのを見ると、ちょっとだけ、二十歳前の自分に言ってやりたくなる。それも混ぜちゃえばよかったのに、って。喜好
好きなところ3 衣装は手で作る
衣装を作る場面が、ほんとに手仕事なのも好き。布を選んで、測って、切って、縫って。一着ができるまでの時間がちゃんと描かれてるから、できあがった衣装を着た姿が、それまでの時間ごと光って見える。模型の完成写真を撮るときの、あの気持ちと同じ。しかも作ってるのは、飾るためじゃなくて、誰かが着るための服。そこが、棚に飾るだけじゃない模型を作りたいあたしには、すごく響く。喜好
ユナさん、その爪の色、今週塗ってる機体と同じ色だね。いい選択だ。……で、あのアニメの衣装の回、僕は縫い代ばかり見ちゃうんだよ。職業病だね。喜好
それな。あたしは布の色の選び方。人に着せる色って、塗料の色を決めるのと似てるんだよ。喜好
似てるどころか、同じ仕事さ。似合う色を探して、相手の顔を明るくしてるんだから。解读
服の話をしてると、あたしはいつの間にか、学生時代のしゃべり方になってる。ルカーノさんの前だと、それが自分でもよく分かる。喜好
ギャルものが苦手な人へ
ギャルが出てくる恋愛ものって聞いて身構える人もいると思う。あたしは最初、恋の話より、新菜が手を動かす場面を追いかけて観てた。そうすると、ものづくりのアニメとして、すごく素直に入ってくる。何かを作るのが好きな人なら、きっと自分の作業机のことを思い出すはず。それに、海夢の「好き」の言い方が気持ちいいから、ギャルってこういう子だよねっていう思い込みも、観てるうちにほどけていく。あたし自身、見た目で「プラモとか興味なさそう」って言われてきたほうだから、そこはちょっと救われる。喜好
ロボットの6選の中で
『ガンダムビルドファイターズ』のセイも、この新菜も、作る手の人。あたしの6選は、機体の泥の話と、作る手の話で、だいたいできてる。美容師の手つきを巻き戻して観てた『ビューティフルライフ』も、たぶん同じ棚。誰かの顔や姿を、いちばんいい形にしようとする手の話に、あたしは昔から弱いみたい。喜好
黙って手を動かすあたしと、好きって大声で言うあたし。どっちも、同じ作業机に座ってる。